大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和45年(行ウ)16号 判決

原告

坂口一正

右訴訟代理人弁護士

三浦久

(ほか二九名)

被告

北九州市水道局長野田誠

右訴訟代理人弁護士

苑田美穀

(ほか二名)

右指定代理人

山田賢治

(ほか二名)

右当事者間の懲戒処分取消請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し昭和四五年一月三一日付でなした減給日額二分の一の懲戒処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和四五年一月当時北九州市(以下単に「市」という場合は「北九州市」をさす。)水道局工務部配水課に勤務していた地方公務員で、自治労北九州市職員労働組合(以下「市職労」という。)及び自治労北九州市職員労働組合水道評議会(以下「水道評議会」という。)に加入し、市職労本部執行委員及び水道評議会特別幹事の役職にあった。

被告は、市水道局の管理者で、水道局所属職員の任免権者である。

2  被告は、原告に対し昭和四五年一月三一日付で減給日額二分の一の懲戒処分(以下「本件処分」という。)をなした。

3  しかし、本件処分は何ら正当な処分事由がないにもかかわらずなされた違法なものであるから、原告は、右処分の取消を求める。

二  請求の原因事実に対する答弁

1  請求の原因1、2の各事実を認める。

2  同3を争う。

三  被告の抗弁

1  本件争議行為について

(一) 争議の背景

(1) 正月を控えて、年末にその年の最後の大掃除をして年を越すということは、わが国の古くからの慣習であり、それらの排棄物を完全に処理することは市民の切実な要求である。

北九州市においても、例年、各家庭や事業所等が排出したし尿や多量のごみを年末までに処理するため、清掃関係職員が年末の休日に出勤して年末特別清掃業務を行っていたものであるが、このような業務は北九州市発足前(昭和三八年二月一〇日以前)の旧五市時代から一貫して行ってきており、これが清掃関係職員の勤務の常態となっていた。

(2) 清掃作業員ら単純な労務に雇用される市職員の就業に関する事項については、北九州市労務職員就業規則の定めるところによるが、同規則では、日曜日は「勤務を要しない日」と定められ(一三条一項)、職員の「休日」は、国民の祝日に関する法律に規定する日並びに一月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日及び同月三一日とすると定めている(一四条一項)。したがって、労働基準法(以下「労基法」という。)三五条に規定する休日は同規則に定める「勤務を要しない日」にあたり、同規則に定める「休日」は労基法上の休日とは別のものである。

また、このような、「休日」の勤務については、同規則は「市長は業務のつごうにより特に必要な場合は、労務職員に対し、休日に勤務することを命ずることができる。」と定めている(一四条二項)。

年末特別清掃業務に関しては、(1)に述べたとおり、その業務の必要性と市民生活への影響等を勘案して、毎年、市長は「業務のつごうにより特に必要な場合」として、清掃関係職員に休日勤務を命じてきた。

(3) 職員の給料について、「勤務を要しない日」は給料支給の対象とはならないが、「休日」については給料支給の対象とされる(北九州市職員の給与に関する条例付則〔昭和四一年五月一八日条例二六号〕二二項、同条例四条一項、一九条一項)。

「休日」に勤務を命ぜられて勤務した職員に対しては、右給料に加えて特別手当として所定の給与額の一〇〇分の一二五にあたる休日勤務手当が支給される(単純な労務に雇用される北九州市職員の給与に関する規則九条、北九州市職員の給与に関する条例一九条二項)。

特に一月一日、同月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日又は同月三一日に勤務を命ぜられた職員に対しては更に勤務一日につき五〇〇円の範囲内で市長が定める額が休日勤務手当に加算して支給されることになっている(同条例付則二〇項)。

(4) 例年、年末特別清掃業務のため清掃関係職員に休日勤務を命ずるにあたっては、その休日勤務の日数及び時間数並びに右休日勤務手当加算額等について、市職労の組織内組織である北九州市現業評議会(以下「現評」という。)等労働組合と交渉を行ってきたが、組合側はこれまで年末休日勤務を拒否することなく、市の計画どおり清掃業務が行われてきた。

(二) 争議行為に至る経緯

(1) 昭和四四年末の休日勤務に関する労働条件について、同年一一月二六日、現評と第一回目の団体交渉を持ち、その際、市は、次の提案を行った。

(ア) 休日勤務を命ずる日及び就業時間

一二月二九日 午前八時から午後四時まで

一二月三〇日 同右

一二月三一日 午前七時から午後三時まで。但し、特に指定する一部の者には深夜勤務として午後八時から午後一二時まで。

(イ) 休日勤務手当又は時間外勤務手当

実働時間に相当する休日勤務手当又は時間外勤務手当を支給するが、手当の加算額として勤務一日につき五〇〇円、三一日の深夜勤務については二五〇円を支給する。

この市の提案に対し、組合側は不満の意を表した。

(2) 同年一二月四日、第二回目の団体交渉を行った。その際、組合側から市職労及び現評連名による要求書が提出されたが、その概要は、次のとおりであった。

(ア) 休日出勤日の就労時間

一二月二九日 午前八時から午後四時まで

一二月三〇日 同右

一二月三一日 午前七時から同一一時三〇分まで

(イ) 休日勤務手当等

一日の就労時間を一〇時間として算出して得た休日勤務手当を支給すること。

手当加算額は出勤一日につき一五〇〇円、三一日の深夜勤務に対しては更に一〇〇〇円を支給すること。

(3) 市の提案した就労時間については平常の業務実態と例年末の作業量等から測定して余裕のある時間数であり、しかも、組合側の要求する一日の就労時間を一〇時間として算出した時間に対応する手当を支給せよというのは、実働時間を越える時間分にも手当を支給せよということである。

加算額の一日五〇〇円については、北九州市職員の給与に関する条例に規定された最高額を支給するものであり、他の職種の職員についてはこれより低い額が定められており、また、他の政令指定都市のそれと比較しても低い額ではない。

(4) 市は、右のような事情を組合に十分説明し、年末清掃についての作業計画や市民への周知等の業務日程を考慮して、同月八日及び一三日と鋭意交渉にあたったが、合意に達しなかった。

このような状況の中で、市職労は、同月一七日、執行委員長名をもって清掃関係組合員に対し、労使の意見が一致しないからとして、同月二九日から同月三一日までの間、休日勤務をしないよう闘争指令を発し、実力行使の態勢を決めた。

同月一九日、福岡県地方労働委員会(以下「地労委」という。)より「双方誠意をもって交渉し、円満解決を図るよう」との趣旨の勧告が出され、市は、勧告の趣旨にそって同月二三日第五回目の交渉を行ったが、意見の一致をみず、さらに、同月二六日、松浦助役は市職労執行委員長らとトップ会談を行って交渉の進展を図ろうとしたが、なお合意に達するに至らなかった。

(5) 市は、一二月二五日、市職労等組合側が既に年末休日勤務をしないよう組合員に指令していたため、年末清掃の市民生活に与える影響の重大性を考慮して、市長名で清掃関係職員に対して一二月二九日、同月三〇日及び同月三一日の休日に勤務するよう勤務命令書を交付した。

同月二八日、地労委より再度の勧告が出された。市は、同日ただちに組合側に同月二九日に交渉を行う旨を通知し、あわせて二九日以降の勤務拒否をやめるよう申し入れたが、組合側は応ぜず、予定どおり二九日よりいっせいに出勤拒否の争議行為に突入した。

(三) 争議行為の状況

一二月二九日、同月三〇日及び同月三一日における組合側の出勤拒否によって、各清掃事務所及び各清掃工場に所属する清掃作業員、自動車運転手ら約一四五〇人中出勤したものは、同月二九日約三四〇人、同月三〇日約四二〇人、同月三一日約四三〇人でいずれも出勤率は三〇パーセントを下廻り、年末清掃業務の正常な運営が著しく阻害された。

そのまま放置すれば年末清掃業務がまひする事態にたち至ったのであるが、この年末特別清掃は前述のとおり旧五市時代から市民の間に深く定着した必要不可欠のものであり、違法争議行為により生じた結果によるものであっても市民に迷惑を及ぼすことだけは最少限にくいとめる必要があるため、市は、緊急措置として一二月二九日から同月三一日までの間に、清掃事業局以外の部局から管理職員を延約四六〇人、臨時雇用の作業員延約二二〇人を急拠投入するとともに、民間業者に委託して車両延約二六〇台、作業員延約一〇六〇人を投入して、ごみ、し尿の収集処理にあたった。その結果、ごみについてはどうにか市民の非難を受けない程度の処理ができたけれども、し尿については、予定の二割ないし三割程度しか処理できなかった。

2  原告の違法行為と処分の根拠法条

(一) 原告の違法行為

原告は、昭和四四年一二月当時、北九州市水道局工務部配水課に所属する技術吏員で、市職労本部執行委員として組合業務に専従していたものであるが、次のような違法行為をした。

(1) 市職労の執行委員として、本件違法争議行為の共謀に積極的に関与し、同年一二月一七日、市職労執行委員長片岸真三郎名による一二月二九日から同月三一日までの間休日出勤を拒否する旨を指令する闘争指令を発出せしめ、さらに同年一二月二六日の市当局とのトップ会談に市職労を代表して市職労執行委員長片岸真三郎、同執行委員門司洋一とともに出席し、市当局が年末特別清掃業務の重要性、本件年末清掃作業の完全実施を誠意をもって説得したにもかかわらず、これを無視し、年末休日勤務拒否態勢を確立した。

(2) 同月二七日午後二時三五分ごろから同三時過ぎまでの間、清掃事業局西港清掃工場業務第一係詰所において、同詰所にいた清掃作業員らに対し、年末休日出勤をしないよう呼びかけた。

(3) 同月二九日午前八時一〇分ころ、同局小倉西清掃事務所事務室において、同清掃事務所長及び副所長らが、同清掃事務所における当日の出勤者が職員一五四人中わずか二六人にすぎず年末清掃業務が完全にまひする事態にたち至ったため、当局が急拠投入した他部局からの応援管理職員及び民間委託業者による作業態勢を整えていたところ、市職労役員新川行雄とともに来て、同所長及び副所長に対し、「職員以外のものが作業車に乗っていいのか。乗せるな。」などと激しく抗議し、同所長及び同副所長の執務を妨害した。

(二) 処分の根拠法案

原告の右行為は、地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)一一条一項及び地方公務員法(以下「地公法」という。)三三条に違反するので、被告は、同法二九条一項一号、三号により原告を本件処分にした。

四  抗弁に対する原告の答弁

1  抗弁1(一)の事実のうち、清掃作業員ら単純な労務に雇用される市職員の就業に関する事項については「北九州市労務職員就業規則」の定めるところによること、市職員の給料については「北九州市職員の給与に関する条例」及び同付則が適用され、休日勤務手当については「単純な労務に雇用される北九州市職員の給与に関する規則」、「北九州市職員の給与に関する条例」及び同条例付則の適用があることを認めるが、その余を争う。

2  抗弁1(二)の事実のうち、市当局が市職労等組合側との団体交渉の席上で年末休日出勤に関して被告主張のような提案をしたこと、市職労等組合側が被告主張のような要求書を提出したこと、一二月一九日に地労委から被告主張の趣旨の勧告が出されたこと、その後団体交渉が行われたが、妥結しないまま同月二五日に被告主張の勤務命令が発せられたこと、同月一七日に市職労が同月二九日から三一日までの休日勤務拒否を組合員に指令し、同月二九日から出勤拒否が行われたことを認めるが、その余を争う。

3  抗弁1(三)の事実のうち、右出勤拒否の間における清掃作業員らの出勤状況が被告主張のとおりであること、市当局がその間において管理職員の動員や民間業者に委託するなどによりごみについてほぼ完全に処理したことを認めるが、その余を争う。

4  抗弁2(一)の事実のうち、原告の職名、所属部課及び組合役職が被告主張のとおりであることを認めるが、その余を否認する。

原告は、昭和四四年一二月二七日、西港清掃工場へ赴いたことはあるが、当時市職労本部の執行委員であって情勢にくわしく、また、専従役員であったため就業時間中の組合活動が自由にできる地位にあったので、当時の流動的な事態を同清掃工場の組合員に説明し、組合の方針に従って冷静に行動してはねあがり的な行動をとらないよう訴えたのであって、被告主張のように組合員に対し職場放棄を呼びかけたことはない。

原告は、同月二九日、小倉西清掃事務所に赴いたことはあるが、それは、同日組合が年末休日出勤を拒否したことに対応して当局が民間業者を清掃作業に就けることが予想され、場合によっては当局の勤務命令に応じて出勤する組合員や他の職員との間で紛争が発生する可能性もあり、これを防止するためであった。

5  抗弁2(二)を争う。

五  原告の再抗弁

1  本件年末出勤拒否及びこれに関する原告の呼びかけは、正当な権利の行使である。

(一) 市清掃事業局勤務の清掃作業員や運転手に年末出勤義務は存しない。

(1) 右清掃作業員らは地公法五七条に規定するいわゆる単純労務職員であって、その労働関係には地公労法及び地公企法三七条ないし三九条が準用される結果、労基法が全面的に適用され、いわゆる特別権力関係にないことは明らかである。被告は、北九州市労務職員就業規則(以下「本件就業規則」ともいう。)一四条二項により右清掃作業員らに対し昭和四四年一二月二九日から同月三一日までの年末休日出勤命令を発したが、右休日に超過労働義務が生じるためには右清掃作業員らの個々の同意を要するところ、右清掃作業員らはいずれも被告の右出勤命令に同意していないから、その超過労働義務が生じていない。すなわち、使用者から具体的な目的、場所などを指定して時間外勤務に服してもらいたいとの申込があった場合に、個々の労働者が自由な意思によって個別的に明示若しくは黙示の合意をしたときは、それによって労働者の利益が害されることはないから、その場合に限り私法上の労働義務が生じるものというべく、右の理は、本件のような法内超過労働の場合にもそのままあてはまるからである。

(2) 北九州市における年末年始出勤については、超過労働義務規定が極めて一般的概括的であるため、労使で具体的な勤務体制及び労働条件を共同決定し、そのうえで各個人に対し具体的な超過労働義務を定めていた。したがって、本件規則一四条二項の一般的概括的な超過労働を定める規定は、労働組合との合意を前提に若しくはその合意とあいまって具体的な超過労働義務を定めるものと解すべきである。

仮にそうでないとしても、旧五市合併以前から年末年始の超過労働について労使の合意が前提とされてきて、これが慣行として定着し、本件就業規則一四条二項だけでは具体的な出勤義務の根拠とはなり得なくなっていた。

このように年末出勤については労使の合意を必要としたところ、本件年末出勤命令は労使の合意なくして出されたものであるから、右清掃作業員らにはその出勤義務がない。

(3) 仮に、年末出勤義務が清掃作業員らないし労働組合の合意なく生じるとしても、年末出勤及びその条件は労使共同決定の原則に基づく団体交渉の対象となる事項であることに変りがない。本来「休日」である年末に出勤せよというのは労働条件の変更であるから、広義の労働条件に類するものとして十分に誠実な団体交渉を尽さなければならない。

ところが、市当局は、形式的な団体交渉を経たのみで、地労委の勧告や組合の譲歩案を全く無視して本件年末出勤を一方的に決定した。このような一方的決定は労働組合の団体交渉権を否認する団交拒否にあたるばかりでなく、その決定に基づき、組合の頭ごしに個々の組合員に出勤命令を出すことは労働組合の運営に対する支配介入に該当する。

したがって、本件年末出勤命令は不当労働行為として無効であるから、清掃作業員らにはその出勤義務がない。

(二) 以上のように、清掃作業員らがなした本件年末休日出勤拒否は、正当な労働者の権利であって市当局との間で何らの義務違反がなく違法な行為ではないから、仮に原告が被告主張のように右出勤拒否を呼びかけたとしても、それは正当な権利行使を呼びかけたものにすぎないから何ら違法でない。

仮に、本件年末休日出勤拒否が争議行為に該当するとしても、後記3、4で述べるとおり、それは正当な争議権の行使であって何ら違法でないから、原告が右出勤拒否を呼びかけたとしても、正当な権利行使を呼びかけたにすぎず違法性は存しない。

2  原告の抗議は、正当な説得活動であって何ら違法でない。

本件のように組合の指示に基づき組合員が団結意思のもとで年末休日出勤を拒否する行為は、社会的実体としては争議行為として把握されるものであるところ、これに対し当局が民間業者に年末清掃作業を委託し、同年一二月二九日に民間業者を清掃作業に就けようとしたことは、明白なスト破りであって、労働者の規範意識からすれば最も卑劣な行為である。原告は、同日、小倉西清掃事務所の事業場内を巡回し、スト破りをした民間業者と市職員との間での紛争の発生を防止しようとしていたもので、紛争発生の危険を生み出した元凶ともいうべき民間業者を就労させようという事態に関し、仮に被告主張のように右清掃事務所長及び副所長に対し抗議したとしても、それは正当な言論活動であって違法とされるいわれはない。

仮に、本件年末休日出勤拒否が違法な争議行為であって、原告が被告主張のような抗議をしたとしても、原告は、当時組合専従であって本件年末休日出勤を命ぜられていないのであるから就労義務違反が存するわけではなく、ただ、スト破りについて抗議したにとどまり、これをもって違法行為とすることは許されない。

3  地公労法一一条一項は憲法に違反する。

原告に対する本件処分の実質的根拠とされた地公労法一一条一項は、地方公営企業職員等の争議行為を全面的に禁止しているが、右条項はすべての勤労者に対し労働基本権を保障した憲法二八条に違反し無効であるから地公労法一一条一項を適用して懲戒処分をすることは許されない。

4  本件各争議行為は地公労法一一条一項所定の争議行為に該当しない。

仮に、地公労法一一条一項が憲法二八条に違反しないとしても、少なくとも憲法二八条に適合するよう限定解釈がなされるべきである。すなわち、地公労法一一条一項は、地方公共団体の業務若しくは職員の職務の公共性の強弱と争議行為の種類・態様・規模とを相関的に考慮し、住民生活全体の利益を害し住民生活への重大な障害をもたらすおそれのある争議行為に限りこれを禁止していると解される。

ごみ、し尿の清掃業務は、市民の保健・衛生にかかわり、その停廃が長期に及んだ場合には住民の生命、健康、公衆衛生に重大な障害をもたらすけれども、短時間の停廃は、所定の収集計画に若干の支障を与えるとしても当日ないしは後日の努力によって回復が十分可能であり、また、他に民間への委託ないしは管理職員等の代替労働によって短時間の停廃による清掃業務の遅滞は容易に補充できる。

本件についていえば、市は、予め清掃作業員らの出勤拒否を予想して昭和四四年一二月二九日から同月三一日までの間に管理職員や民間業者への委託による代替労働を予定しており、実際にも右期間に清掃事業局以外の部局から管理職員延約四六〇名、臨時雇用の作業員延約二二〇名を投入するとともに、民間業者に委託して車輛延約二六〇台、作業員延約一〇六名を投入して代替労働をもって当たらせた結果、ほとんど市民生活に影響がなかった。

してみると、清掃作業員らによる本件年末休日出勤拒否は、地公労法一一条一項で禁止された争議行為に該当せず、同法条違反を理由としてなされた本件処分は違法である。

5  本件処分は懲戒権を濫用してなされたものである。

仮に、原告の各行為が地公労法一一条一項に違反するとしても、右各行為の動機・目的・態様・規模及び集団行為の場合における参画の度合や他の参加者に対する処分との均衡など諸般の事情を勘案すれば、本件処分は、合理的な妥当性を欠き裁量権の必要な限度を超えるものとして、懲戒権の濫用といわねばならない。これを詳述すると、次のとおりである。

清掃作業員らにとっては、年末休日は前述のように出勤義務がない場合であり、このような場合に出勤を命じこれに従わない労働者に対して懲戒処分をすることは許されない。ましてや原告の行為は、年末休日出勤拒否ではなく、被告主張のとおりであったとしても、組合の団結意思に基づいて年末休日出勤拒否を呼びかけ、スト破りについて抗議したにとどまるものであるから、これに対し懲戒処分をすることの不当性は明白である。そして、被告主張のとおりだとしても、原告が清掃作業員らに対し年末休日出勤拒否を呼びかけたのは、一〇分間か二〇分間かの短時間であり、しかも右呼びかけは就労していない清掃作業員らに対して平穏になされたものであるから、その違法性は極めて微弱である。また、原告が被告主張のとおりスト破りについて抗議したとしても、それは暴行、脅迫などを伴わないものであって、それによって清掃事務所長や副所長各個人に対する法益侵害がなかったばかりか、市当局に対して信用を失墜させ又はその危険性のある行為と評価し得るものではなかった。

六  再抗弁に対する被告の答弁

1  再抗弁1の事実のうち、市清掃事業局勤務の清掃作業員らが地公法五七条に規定するいわゆる単純労務職員であること、被告が本件就業規則一四条二項により右清掃作業員らに対し昭和四四年一二月二九日から同月三一日までの年末休日出勤命令を発したことを認めるが、その余は否認若しくは争う。

本件年末休日出勤命令が正当であることを詳述すれば、次のとおりである。

(一) 北九州市における年末休日の意義と休日勤務命令の根拠

(1) 北九州市に勤務する清掃作業員らに適用される本件就業規則一三条は、「日曜日は勤務を要しない日とする」と定めている。この「勤務を要しない日」が、労基法三五条に定めるところの「休日」に該当し、本件就業規則一四条に定められている「休日」は、国民の祝日に関する法律に規定する日並びに一月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日及び同月三一日であり、これは労基法三五条に定められている「休日」とは全く別異のものであり、労基法の基準を上廻って与えるいわゆる法定外休日である。

本件の年末休日勤務命令は、右法定外休日に勤務するよう命令を発したものであって、かかる法定外休日に勤務を命ずる場合には、労基法三三条の制限はなく、同法三六条に基づく三六協定の必要はないのである。したがって、本件就業規則に根拠を有する限り、休日勤務命令を発することができるのである。

(2) 市当局は、年末特別清掃作業を滞りなく円滑に実施するため、本件就業規則一四条二項により、清掃関係職員に対し、年末休日勤務命令を発したが、この年末特別清掃業務は、前述のとおり、市民の利益、公益を維持するため不可欠の重要な業務であるとともに、実施すべき時期が年末の限定された短期間とならざるを得ない。したがって、かかる年末特別清掃業務を実施することは、まさに本件就業規則一四条二項に規定する「業務の都合により特に必要な場合」にほかならない。そして、「特に必要な場合」として限定しているのは、できるだけ休日の趣旨を生かし得るよう時間的並びに人員的にも不必要な人員を休日に出勤させないようにするためである。

市当局が、本件就業規則一四条二項により、清掃関係職員に対し年末の休日勤務を命じたことは、適法かつ妥当な措置である。

(二) 法定外休日労働義務

(1) 本件年末休日(一二月二九日、同月三〇日及び同月三一日)は、既に述べたとおり労基法三五条に定める「休日」ではなく、同法三五条の規定を上廻る法定外休日である。この年末休日は、もともと勤務義務を課せられていない「勤務を要しない日」(労基法三五条の「休日」)とは性格を異にするものであり、本来、一週間の勤務時間が割り振られ、勤務義務の課せられている日であるが、本件就業規則の一四条一項により「休日」とされた結果、任命権者の特別の勤務命令(同条二項)がない限り、職員はその日における現実の勤務が免除されるという性格のものである。

ところが、現実にはかかる休日であっても公務遂行上の必要性から、やむを得ず職員に勤務を命じなければならないことが当然に起こりうるため、市当局はこのような場合を予想して、同条二項に「業務の都合により特に必要な場合は、休日に勤務することを命ずることができる」旨を規定しているのである。

本件年末休日勤務命令は、同規則の同条同項の規定を根拠にして発したものであって、本件勤務命令は有効であり、勤務命令を受けた職員は、これに従う義務が当然に生ずるのである。

(2) なお、本件年末休日勤務命令を発するに当っては、各職員の事情を考慮して行っており、各職員の都合を無視し、勤務を強制したものではない。新年を新たな気持で迎えるため、年末には、職員の家庭においても大掃除を行ったり、帰省するなど正月を前にして何かと多忙な折から、市当局は、本件休日勤務を命ずるに当り、右事情を配慮のうえ出勤できない場合の申し出の機会を与え、各職員の都合を十分に尊重しているのである。

(三) 年末休日勤務拒否の違法性

本件争議行為は、本件就業規則に基づく正当な年末休日勤務命令に違反して組合の闘争指令に従い、集団的に職務を放棄したものである。

さらに、その争議行為たるや前述のように違法、不当ないわゆる「やみ超勤」的な実働時間を超える架空の時間に対応する休日勤務手当を要求し、これが容れられないとなるや、住民生活に密着した年末特別清掃作業を拒否したものである。

このことは、快適な環境の中で正月を清々しい気持で迎えようとするわが国古くからの慣習を無視し、住民生活に重大な支障を与えることを意図したものであり、その目的、手段たるや極めて悪質で違法性の強いものであるといわざるを得ない。

そして、かかる悪質な違法行為を共謀し、遂行するよう清掃作業員らをそそのかし、また、あおるなどして本件争議行為を指導した原告を含む組合幹部の責任は、特に重大である。

2  再抗弁2を争う。

3  再抗弁3を争う。

地公労法一一条一項による争議行為の禁止が憲法二八条に違反しないことは、非現業国家公務員の争議行為を一律全面的に禁止した国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)九八条五項が合憲であることを判示した最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(刑集二七巻四号五四七頁)、非現業地方公務員の争議行為を禁止した地公法三七条一項が合憲であることを判示した同裁判所昭和五一年五月二日大法廷判決(刑集三〇巻五号一一七八頁)、現業国家公務員の争議行為を禁止した公共企業体等労働関係法一七条一項が合憲であることを判示した同裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(刑集三一巻三号一八二頁)などに照らしても明らかである。

4  再抗弁4を争う。

地公労法一一条一項は、地方公営企業の職員及び現業地方公務員の地位の特殊性、職務の公共性を考慮して、これら地方公務員の争議行為を全面一律に禁止しているものである。

5  再抗弁5を争う。

地公法二九条は、職員の義務違反ないし非違行為に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができると規定し、職員に懲戒事由がある場合、これに対し懲戒処分を行うかどうか、いずれの処分を行うかは、同法六条により懲戒権を行使する任命権者が具体的な事情に応じて裁量により決定すべきであるとしており、所属職員に対する懲戒権の行使につき任命権者に広い裁量権が与えられている。そして、行政事件訴訟法三〇条は、「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」と規定し、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合を違法とし、これをもって司法審査権の限界としている。したがって、公務員の懲戒処分につき司法審査権が及ぶのは三権分立の建前上その処分が違法な場合に限られ、しかもその違法な場合とは、処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか、もしくは社会通念上著しく妥当を欠く裁量権濫用の場合に限られると解すべきである。さすれば、裁判所は、その場合、処分権者の判断の結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、処分が社会観念上著しく妥当を欠くか否かによって判断すべきであるから、原告に対する本件処分をもって裁量権濫用とすべき余地はない。

第三証拠関係(略)

理由

一  原告が昭和四四年一二月及び同四五年一月当時市水道局工務部配水課に所属する技術吏員で、市職労及び水道評議会に加入し市職労本部執行委員及び水道評議会特別幹事の役職にあって組合業務に専従していたこと、被告が市水道局の管理者であって水道局所属職員の任免権者であること、被告が原告に対し昭和四五年一月三一日付で本件処分をなしたことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件争議行為について判断する。

1  本件争議の背景

年末にその年の最後の大掃除をして正月を迎えることはわが国の古くからの風習であって、そのため年末には平常時よりも多量のごみが排出されるが、それらの排棄物がその年内に処理されることは市民の切実な要求であること、そこで、地方自治体としては市民の右要求に応じるため年末休日とされている日にも一定の清掃作業をする必要があり、このことが北九州市においても同様であることは、当裁判所に顕著な事実である。

清掃作業員ら単純な労務に雇用される市職員の就業に関する事項は北九州市労務職員就業規則の定めるところにより、市職員の給料については「北九州市職員の給与に関する条例」及び同付則が適用され、休日勤務手当については右条例及び同付則並びに「単純な労務に雇用される北九州市職員の給与に関する規則」の適用があることは、当事者間に争いがない。

そして、(証拠略)を総合すると次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

北九州市労務職員就業規則一四条は、「1労務職員の休日は、国民の祝日に関する法律(昭和二三年法律第一七八号)に規定する日ならびに一月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日および同月三一日とする。2市長は、業務のつごうにより特に必要な場合は、労務職員に対し、休日に勤務することを命ずることができる。3休日と勤務を要しない日とが重複するときは、その日は勤務を要しない日とする。」と規定し、清掃関係職員についても年末は原則として休日とされてはいるものの、市当局は、年末清掃作業についての市民の要求に応じるため、例年清掃作業員の協力を得てこれを実施してきた。休日に勤務を命ぜられて勤務した職員に対しては、給料に加えて特別手当として所定の給与額の一〇〇の一二五にあたる休日勤務手当が支給されるが(北九州市職員の給与に関する条例四条一項、一九条一項、二項、同条例付則〔昭和四一年五月一八日条例二六号〕二二項)、特に一月一日、同月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日又は同月三一日に勤務を命ぜられた職員に対しては、さらに勤務一日につき五〇〇円の範囲内で市長が定める額が休日勤務手当に加算して支給されることになっていた(同条例付則二〇項)。北九州市発足の昭和三八年から昭和四三年までは、年末特別清掃業務のため清掃関係職員に休日勤務を命ずるにあたって、その休日勤務の日数及び時間数並びに休日勤務手当加算額等につき、市職労の組織内組織である現評等労働組合と市当局とが団体交渉によって合意し、かつ、各職員の都合をきいたうえ勤務命令を発し、市の計画どおり円滑に清掃業務が行われてきた。

2  本件争議に至る経緯

(一)  市当局が昭和四四年一一月二六日現評との第一回目の団体交渉の際に次のような提案をしたことは、当事者間に争いがない。

(1) 休日勤務を命ずる日及び就業時間

一二月二九日 午前八時から午後四時まで

一二月三〇日 同右

一二月三一日 午前七時から午後三時まで。但し、特に指定する一部の者には深夜勤務として午後八時から午後一二時まで。

(2) 休日勤務手当又は時間外勤務手当

実働時間に相当する休日勤務手当又は時間外勤務手当を支給するが、手当の加算額として勤務一日につき五〇〇円、三一日の深夜勤務については二五〇円を支給する。

(二)  同年一二月四日第二回目の団体交渉の際に組合側から市職労及び現評連名で市当局に対し次のような概要の要求書が提出されたことは、当事者間に争いがない。

(1) 休日出勤日の就労時間

一二月二九日 午前八時から午後四時まで

一二月三〇日 同右

一二月三一日 午前七時から同一一時三〇分まで

(2) 休日勤務手当等

一日の就労時間を一〇時間として算出して得た休日勤務手当を支給すること。手当加算額は出勤一日につき一五〇〇円、三一日の深夜勤務に対しては更に一〇〇〇円を加算すること。

(三)  一二月一九日に地労委から被告主張の趣旨の勧告が出されたこと、その後団体交渉が行われたが妥結しないまま同月二五日に被告主張の勤務命令が発せられたこと、同月一七日に市職労が同月二九日から三一日までの休日勤務拒否を組合員に指令し、同月二九日から出勤拒否が行われたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に(証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(1) 前記(一)(二)のとおり、年末休日出勤日の就労時間及び休日出勤手当等についての市当局の提案と組合側の要求との間にへだたりがあったので、その後同年一二月八日、同月一三日と団体交渉が持たれたが、年末休日出勤手当額に関し両者間に相違があったためその合意をみるに至らなかった。

すなわち、市当局は、市の提案が昭和四三年の年末出勤の労働条件とほぼ同様のものであって、組合側要求の実働時間を超える時間分について手当を支給することは不合理であり、かつ、手当の加算額は北九州市職員の給与に関する条例に規定された最高額を支給するもので他の政令指定都市の手当加算額と比較しても不当に低い額ではないとして、その提案を譲らなかった。これに対し、市職労は、前記(一)(2)の年末休日勤務手当加算額五〇〇円は実質上六年間も据えおかれたままであるうえ、年末休日出勤手当も大阪市(一二月二八日から三一日まで出勤、三一日は午前一〇時終業、四九時間分の超勤手当の支給)、名古屋市(一二月二九日から三一日まで出勤、超勤手当の他に一日四〇〇円〔但し、三一日は五〇〇円〕と一律二〇〇〇円支給)、神戸市(一二月二九日と三〇日出勤で一六時間四〇分の超勤手当に加えて一日五〇〇円の支給)の各市と比較し低劣であると主張して、市当局の提案の再考を求めたが、結局両者の主張は平行線をたどり、一二月一三日に団体交渉は打ち切られた。

(2) 市職労は、その後一二月一八日地労委に対してあっせんの申請をし、地労委は、同月一九日、労使双方に対し「今次、年末の休日出勤の件については、労使双方は、歳末を控えて清掃業務が渋滞をきたさないよう、とくにその重要性を考慮し、誠意をもって交渉のうえ円満解決を図られるよう切望する。」との勧告を行った。そこで、右勧告に従って同月二三日に第五回目の団体交渉がなされたが、双方が従前の主張を維持して譲らなかったため意見の一致をみるに至らず、さらに、同月二六日に松浦助役と市職労執行委員長片岸真三郎、同執行委員門司洋一及び同執行委員の原告との間でトップ交渉がなされたが、合意に達しなかった。同月二八日に地労委から「清掃関係職員の年末休日出勤の労働条件にかかわる紛議については、他の政令都市の実情を勘案して、労使のあいだで協議決定し、歳末の清掃業務が正常な姿で行われるよう双方格段の努力をされたい。」との勧告が出されたので、同月二九日に第六回目の団体交渉が行われたが、何らの進展もなく不調に終った。市職労は、これよりさき同月一七日に組合所属の清掃関係作業員らに対し執行委員長名をもって、労使の意見が一致しないので同月二九日から同月三一日までの間は休日出勤をしないよう闘争指令を発していた。そこで、市当局は、市職労の右闘争指令により清掃関係職員が年末休日出勤を拒否する事態となれば、市民生活に対し多大の支障を来たすことが予想されたため、一二月二九日、同月三〇日及び同月三一日についての「休日および時間外勤務命令書」を同月二五日に清掃関係職員に対し交付した。しかし、組合側は、右職務命令に従わず、予定どおり同月二九日からいっせいに年末休日出勤拒否の争議行為に突入した。

3  本件争議行為の状況

(一)  市職労の年末休日出勤拒否指令の結果、各清掃事務所及び各清掃工場に所属する清掃作業員、自動車運転手ら約一四五〇名中で出勤した者は、昭和四四年一二月二九日約三四〇人、同月三〇日約四二〇人、同月三一日約四三〇人で、いずれも出勤率は三〇パーセントを下廻っていたこと、市当局がその間において管理職を動員しあるいは民間業者に委託してごみ、し尿の収集処理にあたった結果、ごみについては市民の非難を受けない程度の処理ができたことは、当事者間に争いがない。

(二)  そして、(証拠略)によると、次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

前叙のとおり七割以上の清掃作業員らが年末休日出勤を拒否したため、そのまま放置すれば年末清掃業務がまひし市民生活に重大な悪影響を及ぼすことが予想されたので、市当局は、その影響を最少限にとどめるため、一二月二九日から同月三一日までの間に清掃事業局以外の部局から管理職員を延約四二八人、臨時雇用の作業員延約一七六人を投入するとともに、民間業者にも委託して車輛延約二六〇台、作業員ら延約一〇六〇人を投入し、ごみ、し尿の収集処理にあたった結果、ごみについては前叙のとおり市民の非難を受けない程度の処理ができたが、し尿については、例年、年末にはできる限り収集して残余は越年後早い時期に収集できていたのに、昭和四四年末はその収集作業がはかどらず翌年一月末ころまで手間取って悪影響が後まで残り、市民からの苦情の電話等が相当あった。

なお、後記三の原告の違法行為に関連のある西港清掃工場及び小倉西清掃事務所の状況は、次のとおりであった。

(1) 西港清掃工場における状況

同清掃工場に所属する清掃作業員ら七一名のうち出勤した者は、昭和四四年一二月二九日が六名、同月三〇日が九名、同月三一日が九名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令に従って出勤せずその職務を放棄したため、同工場の業務の正常な運営が著しく阻害された。

(2) 小倉西清掃事務所における状況

同年一二月二九日、同清掃事務所においては、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令に従って行動し、出勤した職員は清掃作業員ら一五四名のうち二六名にすぎなかったため、市当局が緊急配置していた他部局からの応援管理職員及び民間委託業者による作業の出発準備を開始していたところ、原告並びに市労役員らにより作業車の出発が妨害され、このため、同日の同清掃事務所における年末特別清掃作業が大幅に遅れ、同日の予定作業が終了したのは午後一〇時ころであった。

三  次に、原告の違法行為とその処分の根拠法条について判断する。

1  原告が昭和四四年一二月当時市水道局工務部配水課に所属する技術吏員で、市職労本部執行委員及び水道評議会特別幹事として組合業務に専従していたことは、当事者間に争いがない。

(一)  市職労が同年一二月一七日に組合所属の清掃関係作業員らに対し執行委員長片岸真三郎名による同月二九日から同月三一日までの間は休日出勤を拒否する旨の闘争指令を発したこと、原告が市職労執行委員長片岸真三郎、同執行委員門司洋一とともに松浦助役とトップ交渉したが合意に達しなかったことは、前記二2(三)(2)で判示したとおりであり、右事実に原告の組合役職を併せ考えると、特段の反証のない本件においては、原告は、市職労の執行委員として、本件年末休日出勤拒否の争議行為の共謀に関与し、同月一七日に市職労執行委員長片岸真三郎名による右闘争指令の発出に関与するとともに、松浦助役との右トップ会談の際には同助役による年末休日出勤の説得に応ぜず、年末休日出勤態勢の確立に関与したものと推認される。

(二)  (人証略)を総合すると、原告は、同年一二月二七日午後二時三〇分ころ、清掃事業局西港清掃工場業務第一係詰所において、同詰所にいた清掃作業員ら約四〇名に対し、「当局との交渉が決裂したので、同月二九日から三一日までは出勤するな。」といって、年末休日出勤をしないよう呼びかけたことが認められ、原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  (証拠略)を総合すると、原告は、同年一二月二九日午前八時一〇分ころ、清掃事業局小倉西清掃事務所事務室において、同清掃事務所長及び副所長らが、同清掃事務所における当日の出勤者が職員一五四名中わずか二六人にすぎず年末清掃業務が完全にまひする事態にたち至ったため、当局が投入した他部局からの応援管理職員及び委託民間業者による作業態勢を整えていたところ、市職労小倉支部執行委員の新川行雄とともに来て、同所長及び副所長に対し、「職員以外の者を作業車に乗せていいのか。乗せたら承知せんぞ。」といって大声で抗議し、同所長及び同副所長の執務を妨害したことが認められ、(人証略)の結果のうち右認定に反する部分はいずれも採用することができず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2  原告の右各行為は、地公労法一一条一項、地公法三三条に違反し、同法二九条一項一号、三号の懲戒事由に該当する。

四  原告は、本件年末休日出勤拒否が争議行為に該当せず正当な行為である旨主張するので、この点につき判断する。

1  まず、市清掃事業局勤務の清掃作業員らの年末休日出勤義務の存否につき検討する。

右清掃作業員らが地公法五七条に規定するいわゆる単純労務職員たる現業地方公務員(以下「単純労務職員」という。)であることは当事者間に争いがないところ、単純労務職員は、一般職に属する地方公務員であって(地公法三条、地公労法附則四項)、しかもその勤務関係の根幹をなす任用、分限、懲戒、服務等については地公法の規定が全面的に適用されているから、単純労務職員の勤務関係は、基本的には公法上の関係と解するのが相当である。

そして、単純労務職員には地公労法及び地公企法三七条ないし三九条が準用されて(地公法五七条、地公労法附則四項)地公法二四条ないし二六条の適用がなく、ただ、給与の種類と基準のみが条例で定めなければならないとされている(地公企法三八条四項)ことからすれば、法は、その他の勤務条件については条例等に反しない限り当該地方公共団体の長の定める就業規則(地方自治法一五条一項、一四八条一項、二条二項、三項一〇号)若しくは当該地方公共団体の長と労働組合との間で締結される労働協約により規律させようとしていると解される。単純労務職員の労働条件については、職員に団体交渉権や労働協約締結交渉権が認められている(地公労法七条)けれども、これらの職員の権利は、当該地方公共団体の長が本来的に有する勤務条件決定権限に一定限度で制約を加え得るものにすぎず、職員に右の権利があることから直ちに当該地方公共団体の長の勤務条件決定に個々の職員の同意を要するものと解することができない。したがって、公法関係である単純労務職員の勤務関係において、当該地方公共団体の長は、条例、労働協約及び労基法の定めに反しない限り就業規則の制定により勤務条件の決定を行うことができ、右就業規則には私企業における就業規則と異なり地方自治法により法的規範としての効力が与えられているものというべきである。

ところで、労基法三二条には労働時間の制限、同法三五条には休日(いわゆる週休制による休日)についての定めがあるけれども、週休制による休日以外の休日(いわゆる法定外休日)に労働者を労働させる場合に関しては、労基法に何らの規定がなく同法による規制が及ばないから、地方公共団体の長の制定した就業規則ないしは労働協約に法定外休日勤務に関する定めがある場合には、労働条件の基準として個々の職員の同意なくして勤務関係の内容となり職員が法定外休日労働義務を負うことになると解するのが相当である。そして、法定外休日労働について、就業規則ないし労働協約において、日時、労働内容、労働すべき者が具体的に特定されている場合には、右長の休日出勤命令を待つまでもなくそのとおりの休日労働義務が生じるが、概括的一般的な労働義務が定められているにすぎないときは、右長の出勤命令によって休日労働義務が具体的に生ずるというべきである。この場合、出勤命令により労働を命じられた職員に損失を生ずることもあるであろうから、休日労働を命ずるに当っては、職員の個人的利益を考慮する必要のあることはいうまでもなく、職員に出勤しないことについてのやむを得ない事由があるときは右休日労働の義務を免れることができるけれども、職員は、休日出勤命令を受けた後、休日労働の義務を免れるためには右のようなやむを得ない事由の存在について当局に対し告知することが必要である。なお、職員の告知した事由が出勤しないことについてのやむを得ない事由に該当するか否かは、法定外休日出勤を命ずる当局側の必要性と職員の拒否事由の合理性との利益衡量によって判断するのが相当である。

本件についてこれをみるに、前記二1で認定したとおり、清掃関係職員について適用される北九州市労務職員就業規則一四条は、一二月二九日ないし三一日を休日と定めながらも「業務のつごうにより特に必要な場合」は休日勤務を命じ得る旨の概括的一般的な定めをしているところ、右休日は労基法三五条の「休日」ではなくこの基準を上廻って休日とされているいわゆる法定外休日であって、同法三三条、三六条の制限もなければ同法三七条の割増賃金を支払うことも要求されていないけれども、休日となっている日に働かせる以上は割増賃金を支払うことが望ましいので、北九州市においては年末休日に勤務を命じられて勤務した職員に対し給料に加えて特別手当として所定の給与額の一〇〇分の一二五にあたる休日勤務手当を支給するほか勤務一日につき五〇〇円の範囲で市長が定める額を加算して支払ってきた。そして、市の年末清掃は毎年定期的な繁忙期におけるものであったから、市の清掃作業員に対し年末休日出勤を命ずる必要性があったことは前記二1で認定したとおりであるところ、(証拠略)を総合すると、市当局が昭和四四年一二月二五日ころ清掃作業員に同月二九日ないし三一日の休日に勤務するよう勤務命令書を各人に交付すると同時に都合により出勤できない者は同月二五日、二六日の間にその事由を疎明するよう伝えたにもかかわらず、年末休日出勤を拒否した清掃作業員らは出勤できない事由を告知・疎明することもしなかったことが認められる。

してみると、市職員である清掃作業員らには昭和四四年の年末休日出勤義務が存していたものと解すべきである。

なお、原告は、年末休日出勤については従来から労使の合意が前提とされてきてこれが慣習法として法規範性を有するかのような主張をするところ、前記二1で判示したとおり、北九州市発足の昭和三八年から昭和四三年までは、年末特別清掃業務のため清掃関係職員に休日勤務を命ずるにあたって、その休日勤務の日数及び時間数並びに休日勤務手当加算等につき、市職労の組織内組織である現評等労働組合と市当局とが団体交渉によって合意し、かつ、各職員の都合をきいたうえ勤務命令が出されていたけれども、それは、市の計画どおり円滑に清掃業務を行うためのいわば望ましい状態として毎年繰り返されてきたにすぎず、本件全証拠によるもこれが慣習法として法規範性を有するに至ったものと認めることができないから、原告の右主張は採用することができない。

2  次に、原告は、被告が本件年末休日出勤命令を発したことをもって不当労働行為である旨主張するので、この点につき検討する。

年末休日出勤及びその労働条件が団体交渉の対象となり得ることは地公労法七条により明らかであるが、年末休日は年末清掃業務の必要性に鑑みると当初から無条件で休日と定められたものと解することができないから、本件就業規則一四条二項に基づく年末休日出勤命令が休日についての労働条件の変更と解せられない。

前記二2で判示した市当局と市職労との間での団体交渉において、市当局が当局案を一貫して主張し譲歩の姿勢がみられなかった反面、市職労の手当額の増額要求には前年及び他都市と比較しある程度までは無理からぬ面もあるけれども、団体交渉そのものは数回にわたって行われていたのであって、市当局が単に形式的な団体交渉に終始したとはいえない。労使の合意が得られなかったために市当局が昭和四四年一二月二五日に一方的に本件年末休日出勤命令を出さざるを得なかったのは、前記二2(三)(2)で判示したとおり、市職労がこれより前の同年一二月一七日に組合員に対し年末休日出勤を拒否せよとの闘争指令を発していたためと認められる。

したがって、市当局が市職労の運営に介入する意図をもって本件年末休日出勤命令を出したとは解されないから、原告の右主張も採用することができない。

3  本件年末休日出勤拒否が争議行為に該当するか否かにつき検討する。

前記二2で認定したとおり、昭和四四年の年末休日出勤についての手当額等の労働条件が市当局と市職労及び現評との数回にわたる団体交渉によっても合意に至らなかったことから市職労がその主張を貫徹するためその闘争戦術として年末休日勤務拒否の指令を出したので、市職労に属する清掃作業員らは、前叙のとおり年末休日出勤義務が存したにもかかわらず、右指令に従って統一的集団的に年末休日勤務を拒否し、前記二3で認定したように市の清掃業務の正常な運営を阻害したものであるから、本件年末休日出勤拒否は争議行為に該当するというべきである。

4  そして、地公労法一一条一項は後記七で判示するように職員の争議行為を全面かつ一律に禁止しているから、本件年末休日出勤拒否は正当な行為ということができず、これをそそのかし又はあおった原告の行為も右法条項に反する違法な行為というべきである。

五  原告は、小倉西清掃事務所長及び同副所長に対する抗議が正当な説得活動である旨主張するので、この点につき判断する。

前記四で判示したとおり、本件年末休日出勤拒否は違法な争議行為であるところ、前記三1(三)で認定したとおり、清掃作業員らの年末休日出勤拒否により年末清掃業務が完全にまひする事態にたち至るのを防止するため、他部局からの応援管理職員及び委託民間業者による清掃作業態勢を整えることに努力していた小倉西清掃事務所長及び同副所長に対し、原告は、「職員以外の者を作業車に乗せていいのか。乗せたら承知せんぞ。」と大声で抗議し、同所長及び同副所長の執務を妨害したものであるから、原告の右抗議の目的・態様に照らすと、右抗議をもって正当な説得活動と解することができないので、原告の右主張は採用することができない。

六  原告は、地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員及び単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員につき争議行為を一律全面的に禁止した地公労法一一条一項が勤労者に対し労働基本権を保障した憲法二八条に違反し無効である旨、仮に、地公労法一一条一項が憲法二八条に違反しないとしても、少なくとも憲法二八条に適合するように限定解釈がなされるべきである旨主張するので、この点につき判断する。

非現業国家公務員の争議行為を一律全面的に禁止した国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)九八条五項が合憲であることを判示した最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(刑集二七巻四号五四七頁)、非現業地方公務員の争議行為を一律全面的に禁止した地公法三七条一項が合憲であることを判示した同裁判所昭和五一年五月二日大法廷判決(刑集三〇巻五号一一七八頁)、現業国家公務員の争議行為を一律全面的に禁止した公共企業体等労働関係法一七条一項が合憲であることを判示した同裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(刑集三一巻三号一八二頁)の趣旨に照らし、地公労法一一条一項は、憲法二八条に違反せず、かつ、その合憲性につきいわゆる限定解釈がなされるべきではなく、地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員及び単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員に対し一切の争議行為を禁止しているものと解するのが相当である。

すなわち、地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員及び単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員(以下両者を合わせて単に「職員」という。)も憲法二八条所定の勤労者にあたるが、職員は、地方公務員であるから、身分取扱い及び職務の性質・内容等において非現業の地方公務員と多少異なる点があっても、全体の奉仕者として地方の住民全体に対し労務提供の義務を負い、公共の利益のため勤務するものである点において両者間に基本的な相異はなく、職員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性及び職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃が住民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか又はそのおそれがあることは、他の非現業の地方公務員、国家公務員及びいわゆる三公社五現業の職員の場合と異なるところがない。そして、職員は、非現業の地方公務員と同様に議会制民主主義に基づく財政民主主義の原則により給与その他の勤務条件が法律ないし地方議会の定める条例、予算で決定される特殊な地位にあり、職員に団体交渉権、労働協約締結権を保障する地公労法も条例、予算その他地方議会による制約を認めている(地公企法三八条四項、地公労法八条ないし一〇条等)。また、職員の職務内容は、利潤追求を本来の目的としておらず、その争議行為に対しては、私企業におけると異なり使用者側からの対抗手段を欠き(地公労法一一条二項)、経営悪化といった面からの制約がないだけでなく、いわゆる市場の抑制力も働らく余地がないため、職員の争議行為は、適正に勤務条件を決定する機能を果たすことができず、かえって議会において民主的に行われるべき勤務条件決定に対し不当な圧力となり、その手続過程をゆがめるおそれもある。したがって、職員の争議行為が、これら職員の地位の特殊性と住民ないし国民全体の共同利益の保障の見地から、法律により私企業におけるそれと異なる制約に服すべきものとされるのもやむを得ないといわねばならない。職員が憲法によりその労働基本権を保障されている以上、この保障と住民ないし国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれることを必要とすることは憲法の趣意であると解されるから、その労働基本権の一部である争議権を禁止するにあたっては、これに代わる相応の代償措置が講じられなければならないところ、現行法制をみるに、職員は、地方公務員として法律上その身分の保障をうけ、給与については生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間企業の従事者の給与その他の事情を考慮して条例で定めなければならない(地方公営企業法三八条三項、四項)とされている。そして、特に地公労法は、当局と職員との間の紛争につき、労働委員会によるあっ旋、調停、仲裁の制度を設け、その一六条一項本文において、「仲裁裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また、地方公共団体の長は、当該仲裁裁定が実施されるように、できる限り努力しなければならない。」と定め、更に同項但書は、当局の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とする仲裁裁定については、一〇条を準用して、これを地方公共団体の議会に付議して、議会の最終決定に委ねることにしている。これらは、職員ないし組合に労働協約締結権を含む団体交渉権を認めながら、争議権を否定する場合の代償措置として、適正に整備されたものということができ、職員の生存権擁護のための配慮に欠けるところはないというべきである。

してみると、地公労法一一条一項は、職員に対し争議行為を一律全面的に禁止しているけれども、憲法二八条に違反せず、かつ、その合憲性につき限定解釈をなすべきものではないから、原告の前記主張は採用することができない。

七  次に、原告は、地公労法一一条一項を憲法二八条に適合するようその合憲性につき限定解釈をすべきことを前提に、本件各争議行為は地公労法一一条一項で禁止する争議行為に該当しない旨主張するので、この点につき判断する。

地公労法一一条一項が合憲であることを認めるにつき限定解釈をすべきものではなく、右条項は職員に対し争議行為を一律全面的に禁止していると解すべきことは、前記六で説示したとおりであるから、原告の右主張は、その前提を欠くのみならず、前記二で判示した本件各争議行為をその態様からみて同条項で禁止されている争議行為に該当することが明らかである。

したがって、原告の右主張は採用することができない。

八  原告は、本件処分が懲戒権の濫用にあたると主張するので、この点につき判断する。

公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒権者が当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては公正でなければならないが、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果その他諸般の事情を考慮して、懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選ぶかを決定しうるのであって、それらは懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

右の見地に立って、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものであるか否かについて検討する。

前記認定事実によると、本件年末休日出勤の労働条件についての団体交渉において、市当局側にその対応の姿勢に若干頑な点があったにせよ、誠実に団交義務を尽さなかったといえず、組合側の年末出勤拒否のため年末清掃事業の実施について清掃事業局以外の部局からの管理職員の投入と民間業者への委託とに頼らざるを得なくなり、これによりごみの収集については最悪の事態を避けられたとしても、し尿の収集が相当遅延したため市民生活に迷惑を及ぼし、市民の苦情が出たという影響は軽視できないところであり、原告が市職労本部執行委員及び水道評議会特別幹事として清掃作業員らに年末出勤拒否を呼びかけ、また、年末清掃作業態勢を整えることに努力していた清掃事務所長及び副所長に抗議してこれを妨害しようとした責任は重大であるといわなければならない。

前記の原告の組合役職及び本件行為の性質、態様、情状その他諸般の事情に照らすと、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、他にこれを認めるに足る事情も見当たらない以上、本件処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできない。

九  よって、被告のなした本件処分には違法な点がなく、右処分の取消を求める原告の本件請求は理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 湯地紘一郎 裁判官 林田宗一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例